『火車』宮部みゆきの書評です
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『火車』宮部みゆき

 宮部みゆき作品はいままでに短編集を2冊ほどだが読んだことがある。その中で一編だけ「いい話だなぁ」と印象に残っている作品があったと記憶している。その後しばらく宮部作品を読んでいないのは、まぁ、その短編集の中の一編をのぞいては、可もなく不可もなくという印象だったからだ。しかし今回、いままで長編を読んでいなかったこともあるし、ネットで名作という評判を見かけたのでこの『火車』を読んでみることにした。

 きわめて率直に言って、新幹線で東京から大阪へ行く時などにはぴったりの作品という感じだった(長いので東京〜大阪間一往復じゃ読み切れないかもしれないが)。本作もやっぱり、可もなく不可もなくなのだ。丁寧に書かれているし、文章は読みやすく、ストーリーもけっこう面白い。文庫で528ページとかなり長いが、途中で飽きてしまうこともない。物語の中盤から後半にかけては、先を読むのが楽しみに感じたりもする。

 多くの人が絶賛するだけあって、楽しめる本であることは間違いない。ただ、残念なことに私の基準ではそこ止まりの作品だ。

 本作が刊行されたのが1992年というから、宮部氏が32歳くらいのときに書かれている。その年齢を考えれば、素直にたいしたものだと思う。が、残念なことに作品の中にその若さが出てしまっている。細かい部分に読者として納得できない点が散見するのだ。

 さらに言えば、これだけの長編でありながら、どの登場人物もその人間像までしっかりと描ききってはいない。だから長く心に残る作品とはなり得ないのだ。

 主人公は42歳の休職中の刑事、物語の主要テーマは個人的な多重債務、破産に関するものである。綿密に取材はしたようだが、32歳の宮部氏にふさわしいテーマではなかったのではないだろうか。ラストをあのような形にしたのは、宮部氏としてもその先を描き切る自信が持てなかったためかもしれない。その点にも不満が残った。

 それにしても、今(2014年1月)からほんの25年ほど前の社会が舞台になっているというのに、随所に現在と異なる文化、風俗、技術などが登場する点は面白い。全体的に作者が丁寧に筆をすすめているので、そんなところを楽しみながら読んでみてもいいかもしれない。

 また、注釈が欲しい部分も数多くあったが、その点の配慮に乏しいと感じた。これは最初に本書を刊行した双葉社の担当編集者の怠慢だろう。

 と、だいぶけなしてしまったが、うまいなぁと思わせる部分もたくさんあるし、面白い小説ではあるので長旅のお伴には最適かもしれない。

火車
発  行:2004年7月(双葉社)→ 1998年2月1日(新潮文庫)
出版社 :新潮社
ページ数:582ページ

ここからは小説の内容について触れるため「ネタバレ注意」。まだ本書を未読の方は読まないでください。

 いくつか細かい突っ込みどころをピックアップしておこうかと思ったが、突っ込みどころの付箋が大量になってしまったのでやめておく。代わりに指摘しておきたいのは、細かいうんちくみたいなものをストーリーの中に入れ込んである小説が個人的に好きなだけに、宮部氏の場合、そこの部分はもう少し丁寧に書いてくれたほうがいいような気がするなぁ。そこらへんの扱い、最近の作品ではどうなんだろうか。

 まぁ、気をつけて読んでいくと、突っ込みどころがたくさん見つかるのでそれを探しながら読んでみても面白いかも……。

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